30.「働き方改革への取り組み」(3)現状把握フェーズ
考え方としてシックスシグマで使われるMAICの手法に沿って進めます。
(シックスシグマに関しては、第13回「日本国内の展開とアメリカのシックスシグマ」、第14回「PDCAの進化と課題」を参照してください。)
第30回【M】:現状把握、第31回【A】: 分析・検討、第32回【I】:改善、第33回【C】: 管理(後戻りしない状態を維持、継続する)
最近では、MAICの前にDをつけて、DMAICとするようになってきました。Dは、定義する(define)です。
前回(第29回)に書いた、「仕事を生産的なものにすることによって、早く帰ることができるようになる。そして、そこで生み出した時間で個々人が何を実現したいのか?」この答えが「働き方改革」における定義になり、目標を決めるベースになります。
では、第一ステップのM(現状把握)に進んでいきましょう。
1.仕事の棚卸
仕事の棚卸(あるいは洗い出し)をします。
これまでにも何度かやったことがあるのではないでしょうか。それをベースにしても結構ですし、初めて取り組む、あるいは期間が空いていたりするならば、ゼロからスタートしても構いません。チームメンバー各自が自分の仕事を書き出し、チーム全体で持ち寄って一つにまとめます。エクセルなどで共通の書式を作っておくと後からまとめやすいでしょう。
ここまでは、ごく当たり前にやっていることでしょう。以下に注意点を挙げます。
・複数のメンバーが関わる仕事で、モレやダブりがないか?
・リスト化するまでもないと思っていても、実際には時間をとられている業務はないか?
・年に一回、半年に一回など定期的に確実にやるべき業務にモレはないか?
・突発的に必要な業務(例:台風が来た時の対応業務)も書き出しているか?
・Aさんしかわからない(できない)ような業務について、Aさんは書き出しているか?
・本来の業務範囲を超えるものでも、上位者の指示でやっている業務はないか?
・会議や報告会、出張なども定例のものはあげておきましょう。
まずは、重要性や要する時間・労力に関わりなくすべてを書き出しましょう。
2.チーム全体で一つのシートにまとめる
仕事の棚卸でかなりの大きさ(長さ)のシートが出来上がるはずです。ただし、この時点では、その業務の重要性やボリュームなどがバラバラな状態です。ここから大・中・小の3層くらいに区分します。(多くて3層まで)
3.個々の業務の「目的」を考える
「なんのためにこの仕事をしているのか?」を考えることです。ここでのポイントは、そもそもこの仕事の目的は?と原点に返って考えることです。「前任者から引き継いだから」「上司に言われたから」「他部署からの依頼だから」といったものが出てきます。そうすると、それらの仕事の目的に沿った修正や改善、廃棄にもつながります。(これらの分析・検討は、次回コラムで書く「A」ステップ2で実施します。)
4.前工程、後工程(=依頼者、報告先)は誰か
2.で作成したシートに、その業務の前工程(=依頼者)と後工程(=報告先)を書き込んでいきましょう。ここを明らかにしておくことで、「A」ステップ2の分析・検討の質とスピードが上がります。
5.ボリューム(時間)を見積もる
その仕事にどのくらいの時間を要しているのかを見積もって記入しましょう。
これは正確でなくても大体のレベルでOKです。
ここまでの「業務一覧表」を作成するだけでも結構な労力がかかるかと思います。
手順をまとめると
(1)まずメンバー各自に自分の業務について作成してもらいます。
(2)それらのシートを一つにまとめます。
(3)メンバーを集めて個々人に割り振られている業務以外の、チームとしてやっている業務を書き加えます。
(4)あげられた業務をそれらの重要性、ボリュームなどを基準に3層くらいに分けます。
(5)項目ごとに前工程、後工程を記入します。
(6)同じく所要時間を記入します。
(7)全体を俯瞰してヌケ・モレがないか確認します。ダブリは削除します。
5.まで進んだら、作成したシートを各自のPCでも見られるように共有します。
また、できるだけ大きく拡大して壁、ホワイトボードに張り出しておきます。追加があればその都度書き加えてください。
ここまでやるだけで、メンバーからもムダの指摘や改善への提案が出てくるものです。ただ、注意していただきたいのは、個人の判断で無駄の廃棄や改善をしてしまわないことです。あなたのチームにとっては合理的な判断であっても、全体に与える影響を考慮に入れなければならないからです。(部分最適を追求するあまり、他部門にしわ寄せが行ったり、全体の効率を落としたりてはいけません)
以降は、第31回の「A」ステップ2で説明していきます。
Topics : 3ム(ムリ、ムラ、ムダ)
生産管理の分野で3ムという言葉をよく聞きます。ムリ、ムラ、ムダの3つのムのことです。生産現場だけでなく、知識労働でも考えるべき視点です。・「ムリ」とは、業務遂行に必要な資源に対して投入する資源が足りない状況
ここでいう資源とは、時間、事務機器、担当者の理解力や実行力(スキル)など
・「ムラ」とは、業務のアウトプットにばらつきがある状況です。
Aさんがやれば30分、Bさんだと60分かかるとすると経験値、スキルなどどこに差異の原因があるかを分析しなければなりません。
また、質のばらつきがあります。要求水準を満たしていることは最低限必要です。一方で、必要以上に詳細なところまで作業していないかもチェックが必要です。
・「ムダ」とは、価値を生まない活動に資源を投下している状況を言います。
今回のコラムでは、仕事の棚卸をして一覧表をつくる方法を解説しました。この中からもムダは出てきますが、第28回のコラムで紹介した「ものを探す時間」「仕事モードに入るまでのダラダラ時間」「(自分・自部門にとって)無用、不要な会議に巻き込まれる時間」がムダの最たるものです。
次回「第31回 働き方改革への取り組み(4)分析・検討フェーズ」は1月31日掲載の予定です。
Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。