27.「働き方改革」着手の前に検討しておくべきこと
改革に先立って、まず現状で単月でも「100時間超の時間外勤務や80時間超の時間外勤務が、3か月以上続いている社員がいないか?」「御社の36協定の上限を超える時間外勤務が発生していないか?」をチェックする必要があります。
昨今の労働基準書の監督指導の強化方針のもと、早急に対処が必要です。当然ながら、社員の健康管理もです。
(1)起こりそうな障害
上記に該当するケースがあるようでしたら、改革の成果を待っていては事態を悪化させてしまいます。対症療法ではありますが、「時間外の業務の届け出制」「○○時オフィスの消灯、退出」などの強硬な手段をとってでも、違法状態の解消と会社としての安全配慮義務を果たす行動が必須です。(2000年の電通事件において、最高裁は会社側の安全配慮義務違反を明確に認めたのです)
上記の対策をとった場合に想定される障害は、それぞれの企業によってまちまちでしょうが、以下のようなものが想像されます。
・仕事の負担の偏りによる一部の「できる社員」への過負荷状態
・育児・介護などでの短時間勤務社員に対する不協和音
・時間外手当が減ることによる収入のダウンへの抵抗、などでしょうか。
これらについては、経営者や部門長とも事前に検討・対策を考えておきことをお奨めします。
(2)改革後の反動
改革がうまく進み、生産性が向上して、時間外労働が減り、社員がワークライフバランスを実現できれば最高の結果です。
しかしながら、現実にはこの流れに取り残される社員が少なからず存在します。非効率な担当業務にしがみつく、効率化が進むことによって担当する(させる)仕事がなくなってしまうケースです。
こういった社員を同じ職場においておくと、いずれ改革の成果に水を差してしまいます。部門長の目からは、どの社員が取り残されそうかは、今の時点でも想像がつくはずです。その社員の強みを生かせる職場・職種を考えておく、また会社全体で(秘密裏に)検討しておくことをお奨めします。
Topics : Employability とEmploymentabirity
エンプロイアビリティ(employability)とは、企業が社員に求める「企業の業績を向上させるため、組織で果たすべき役割に必要な能力」のことであり、社員教育(OJT や Off-JT)を通して身につけていくものであり、最近では、キャリア採用によって外部からの雇用も多くなっています。具体的な内容は、
・職務遂行に必要な特定の知識・技能などの顕在的なもの
・協調性、積極性等、職務遂行に当たって発揮される、個々人の思考特性や行動特性 に係るもの
・動機、人柄、性格、信念、価値観等潜在的な個人的属性に係るもの、です。
一方、エンプロイメンタビリティ(employmentability)とは、「企業の雇用能力」を意味する用語です。
雇用される側からみて魅力的な企業か、継続的に雇用されたいか、といった価値に関する概念で、雇用主としての能力や優秀な人材をひきつける吸引力を表します。
また、日本の企業にとっては、たとえ業務の縮小であっても、欧米企業のように簡単にはリストラ(整理解雇)できない現状があります。(整理解雇の四要件*)
さらに、定年の延長などもあって、企業は採用した社員を雇い続けることが求められます。
まさに「働き方改革」で現状の業務では成果のあげられない社員、高齢化で従来のような成果のあげられなくなった社員に対しての仕事作りが必要で、その創出能力が企業の優劣を決めていくようになっていきます。
*整理解雇の四要件
経営不振や事業縮小など、使用者側の事情による人員削減のための解雇を「整理解雇」といい、これを行うためには原則として、過去の労働判例から確立された4つの要件(1.人員整理の必要性 2.解雇回避努力義務の履行 3.被解雇者選定の合理性 4.解雇手続の妥当性)が充たされていなければなりません。これらを、「整理解雇の四要件」と呼びます。 現在の日本の労働法では、単に社員の業務遂行能力が落ちたことを理由に解雇はできません。
Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。