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25.「働き方改革」労働時間の把握~そもそもタイムカードとは~

今回は労働時間の把握という内容で書いていきます。
「働き方改革」に入る前にまず、整備すべき内容だからです。正しい労働状況(労働時間)を把握せずして、改革を進めてはいけません。
また、監督署の調査に対する自己防衛をしておくための準備の意味もあります。

皆さんは、平成13年4月6日付「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(いわゆる「ヨンロク通達」)は、ご存知でしょうか。
それまでは、どちらかというと工場現場労働者の労働時間(残業時間や割増賃金)の把握と違反に対しての指導が中心でした。
しかし、ホワイトカラーの労働者に対しても労働時間の適性把握、残業代未払などについても厳しく指導していくために通達され、使用者に対して適正な運用を求めるものです。

今般、この基準に変わるものとして、今年(平成29年)1月20日付で、厚生労働省から「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずるべき措置に関するガイドライン」http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html が発出されています。
このガイドラインでは、従来の基準にはなかった、「着替え等の準備行為に要する時間」「いわゆる手待時間」「使用者の指示による研修・学習等の時間」など、使用者の指揮命令下に置かれていると評価できる時間を労働時間として取り扱うべきとしています。比較的グレーとして判断があいまいにされてきた点を、はっきりと労働時間とすべきとしています。

違反事例として、雑誌(日経ビジネス)に紹介されたもので、旅館における「中抜き勤務」があります。朝と夕方の8時間を所定労働時間とし、10時から16時までは「中抜き」として休憩スペースでの自由時間とし、労働時間には入れていませんでした。(拘束時間が長くなることから勤務一回当たりで○○円といった手当は支給していました)
これに対して、監督署は従業員に対する聞き取りで、お客様からの問い合わせ、要望があったら応えるのか?という質問に対して、「そういったケースでは対応します」と答えた社員の回答を根拠に、「中抜き」は待機時間にあたるため、労働時間に算入すべきであり、当該時間の賃金及び割増賃金の支払いを命じました。

また、このガイドライン最大のポイントは、労働時間の「自己申告制」に対してより踏み込んだ内容になっていることです。

《従来の通達で示されていた点》

・労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどを労働者に事前に十分に説明すること

・自己申告による労働時間と実際の労働時間が合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査をすること

・労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと
 

《今回のガイドラインで追加されたこと》

・実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと

・自己申告による労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間記録などによる時間との間に著しい乖離(かいり)が生じているときは、実態調査を実施し、労働時間の補正を行うこと

・自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること

・36協定において認められる延長時間を超えて労働しているにもかかわらず、記録上はこれを守っているようにすることが慣習的に行われていないかについて確認すること
 

《上記のほかに、賃金台帳、書類の保管期限に関するものとして》

・賃金台帳において、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数などを適正に記入すること

・労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿、タイムカード等の労働時間の記録に関する書類を3年間保存すること

 
コラム写真01
市販の給与計算ソフトやエクセルなどの表計算ソフトを使って、出勤退勤時間を自己申告で記録して、タイムカードとしているケースが多いと思います。 これ自体がいけないということではありませんが、上記のガイドラインを従業員に周知すること、周知したことの記録を残しておくことが重要です。

私の経験したことですが、
・取締役(使用人兼務役員)が、自分は時間管理の対象外の労働をしているからタイムカードは記入する必要はない、との抵抗にあいました。
必ず記入してもらわなければなりません。通達、ガイドラインを示して記入をしてもらいました。代表取締役、専任の取締役については、使用人ではないため義務はありませんが、率先して早く帰るなどして残業抑制を進めていることを監督署にアピールするために記入をお願いしてもよいでしょう。

・営業担当者が、毎日定時出社・退社(9:00,18:00)のタイムカードを作成していたケース。
実際に監督署で議論になりました。営業担当者本人は、客先直行や自宅への直帰のケースでは、遅く家を出たり、早く帰宅したりすることがある。所定時間内でも時間調整のために喫茶店で休憩したり、業務とまでは言い切れない夜のお付き合いをしたりすることもある。この辺りは裁量の範囲で対応できないか?という主張です。

監督署の見解は、「本人の見解はどうであれ、会社がタイムカードの記入について定時勤務とするように指導していないことを証明できない以上認めるわけにはいかない」というものでした。口頭による改善要求で、是正の指導はありませんでしたが、手間でも毎日正確な時刻を記録することを社員に徹底することだと思います。

・セキュリティーの観点から、最終退出者が消灯・施錠のチェックとともに退出時間を記入するチェックリストがありました。
また、警備システムのレポートでは、日々の開錠時刻とカードNo(所持者)・施錠時刻とカードNo(所持者)がわかります。監督官からこれらの資料の提出は求められませんでしたが、当然、目に入っていました。自己申告の時刻とチェックリスト・レポートの時刻の乖離については指摘されませんでしたが、要注意ポイントです。

最後に、監督署の調査については、その前の段階として「時間外労働削減への取組に関するアンケート」などと称した文書が来ることがあります。その中に、100時間を超える残業をしている従業員がいるか?80時間を超える残業が3か月以上続いている従業員はいるか?などの項目があります。この回答を見て調査に入ることが多いようです。当然、正しく回答(申告)しなければなりません。
原則、事前に調査日と用意すべき書類を示した文書が来ます。企業の事務所内で調査するケースと書類を持参して監督署に行くケースがあります。

しかし、突然予告なしに訪問を受けるケースがあります。このケースは、何かの違反事例をつかんでいる、社員から監督署に相談があったことが考えられます。
いずれにせよ、書類上の不備を指摘されて、是正報告、経過報告などに時間をとられることのないよう、できる対策は今からやっておきましょう。

次回「第26回『働き方改革』労働局、労基署の利用」は11月2日掲載の予定です。
大庭純一

Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。

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