【人事よ、臆せずススメ!】第14回 PDCA再考(2)
前回(第13回)では、生産現場での品質改善活動からスタートしたQC活動を支える問題解決のツールがPDCAだと説明しました。
1.QC(PDCA)の進化
QC活動自体の進化に合わせて、ツールとしてのPDCAも日々進化しています。品質改善→品質管理→(顧客視点からの)品質マネジメント→生産プロセス改革、といった流れがあります。もう一つの変化は、問題解決型から課題達成型への拡大です。これらの進化をうけて、対象範囲も生産活動のみならず、幅広い業務改革、マネジメント上の課題達成へと広がっています。
シックスシグマにおいても同様の進化が見られます。進化系のリーンシックスシグマを導入して、業務プロセス改革→マネジメント改革→成功事例の収集と標準化が進んでいます。一般企業だけでなく、公官庁・NPO・医療・軍事分野まで対象を拡げ、ビジネス共通言語として、新興国に対する積極的な展開を図っています。日本国内では、シックスシグマ導入企業(組織)は少数の大手企業に限定されています。しかし今後、海外に進出している中小製造業などにとっては、進出国の情勢を見るうえでシックスシグマの展開状況も知っておく必要があります。
2.課題(導入にあたっての留意点)
1)いきなり計画を作成することからスタートしてしまう目の前にある「問題」「課題」に飛びついて、その時点でとらえている現象に対して、まず一番目のP(計画)に飛びついてしまうことがあります。
さらに、①しっかりとした計画が必要という観念から柔軟性のない計画を作り上げてD(実行)に移ってしまう。あるいは、②実行を急ぐあまりにP(計画)が十分でないまま見切り発車してしまう、などがあります。
その時点でとらえられている現象が当たっていれば成果が上がるでしょう。しかし実際に、それは稀なケースです。
なので、現状把握をしっかりやることが肝心です。それもリーダー一人ではなく、チーム内、さらに影響を受けるであろう外部の関係者にも意見を求めることです。この「影響がおよぶであろう外部」という視点も落としがちです。部分最適を求めても、全体にとってはマイナスになりかねません。P、Dに入る前にしっかり調整しておくこと、これが「後戻り」や「やり直し」を防ぐことになります。
シックスシグマのDMAIC手法では、最初にD(定義)M(測定)のフェーズがあります。「問題」「課題」が何かをしっかり定義したうえで、現状がどうなっているのかをしっかり測定(観察)するように設計されているのです。いいところは、取り込んでしまいましょう。
2)結果だけを管理していると対応が遅くなる
P(計画)→D(実行)の結果をC(評価)するのですが、このプロセスをまじめに進めようとすると、評価までに時間がかかってしまいます。結果が出てからでないとC(評価)A(改善のためのアクション)ができないということです。
P→Dを進めている中で予測される結果(たぶん複数あるでしょう)については、個別に小さなサブプロセスとしてC→Aを並行して試してみるくらいのスピード感が求められます。
3)一巡して終わりにしてしまう
これをPDCAを回す、という言い方をします。これは、サイクルを一回転させるだけでなく、継続して次のサイクルを回して、成果をあげ、実績を積み重ねていく事をいいます(spiral up:スパイラルアップ)。
一巡目が終了した時点で大きな成果(実績)があったとしてもすべてが解決してはいないでしょう。一つ解決したことにより派生して他の「問題」「課題」が出てくることがあります。また、新たな「問題」「課題」が発生することもあります。継続的な活動をしていきましょう。
また、活動に取り掛かる前に1番目の取り組みが終了したら、2番目は…3番目は…と、次の「問題」「課題」をあらかじめ用意しているでしょうか?その時の注意点として、1番目が解決したときには、あらためて優先順位を見直してください。2番目と思っていたことより、3番目、4番目がより重要になっていたり、想定外の新たな「問題」「課題」が出て来たりすることがあります。
企業を取り巻く環境は、日々変化しています。また、その変化のスピードはどんどん速くなっています。変化の速度に対応することばかりに気をとられて、むやみに対策を打つことは避けたいものです。PDCA(あるいはDMAIC)というツールを理解し、慎重かつ素早くステップを踏んで成果をあげていくことです。
このPDCA再考のブームには、働き方改革の影響があることも確かでしょう。生産部門以上に、事務管理・サービス部門の生産性向上が求められています。残業時間は大きく削減しなければならない一方で、今まで以上に成果をあげていかなければ内外の競争についていけない、厳しい時代です。その解決のための手段として、業務プロセス改善手法としてのツール、PDCAに注目があつまっているのです。
書店には、PDCAに関する多くの新刊が出ています。いかにテンポよくPDCAを回していくか(超高速PDCA、鬼速PDCA、など)を扱ったものが多いようです。また、トヨタ自動車での活動とコンサル(マッキンゼー:アメリカ合衆国に本社を置くコンサルティング会社)での知見を合わせた本格的なものも出ています。
大型書店で、皆さんの組織に合いそうなものを選んで、一度丁寧にサイクルを回してみてください。これで要領をつかんだら、あとは応用です。高速で回転させたり、メインのサイクルの中でサブサイクルを複数回したり、同時並行で複数サイクルを回したり、オリジナルを作っていってください。
Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。