62.会議の生産性について考える(1)
そんなピンチの中、ITの活用による会議の見直しが話題になっています。在宅勤務を余儀なくされる状況で、これまで利用していなかった/禁止していたPC、スマートフォンを自宅に持ち帰り積極活用する動きです。すでに、導入済みのところもあるかもしれません。
今回のような災害によるピンチを、少しでも新たな挑戦の機会ととらえて「会議の生産性」を考えて仕組みを作っておきましょう。
今回のコロナウイルスによる感染症が収束したとしても、また何年後かに新たな感染症の流行が起きないとも限りません。しっかり乗り切ると同時に、将来への備えもしておきたいものです。 生産性に関しては、次のような言い方をよく聞きます。
「日本のGDPは世界第3位ながら、一人当たりに換算すると第26位」(2018年のデータ 2019.12 OECDの発表による)
ここから、日本のホワイトカラーの生産性の低さが指摘されます。私も大手製造業の管理部門に在籍していた当時には、「製造現場は頑張っているが、事務の生産性が悪い」とよく叱られたものです。しかし、「欧米との土俵の違いがある」と、ささやかな抵抗をしていました。
日本企業の事務管理業務は、年末調整、社会保険業務、福利厚生など、欧米先進国では社員一人ひとりが行っていることまで業務範囲になっています。マイナンバーカード導入に関しても、本来ならば国と個人が行うことを、社員(とその家族)の面倒まで企業が見る、他国ではありえないことでした。
少々、愚痴っぽくなってしまいましたが、「会議の生産性」を考えると、こちらは問題山積なのではないでしょうか。また、みんながそれに気づきながら手が付けられない状況であることも多いようです。
前置きが長くなってしまいましたが、この連載では、ドラッカーの著作から多く引用してきました。
『経営者の条件』で紹介されている「成果をあげるために身につけておくべき5つの習慣的能力」があります。
その1番目が時間管理です。会議における時間の使い方も大きなテーマです。
長いですが、引用します。
ある社長は、部内の会議が時間の浪費であることを承知していた。しかし彼は、議題の如何にかかわらず、あらゆる会議に役職者全員を参加させていた。
その結果、会議の出席者が多くなりすぎていた。しかも出席者たちは会議に関心があることをアピールするだけのために、数なくとも一回はあまり意味のない質問をするようになっていた。そのため会議はいつも長引いていた。
この社長は、部下たちもその会議を時間の浪費と考えていることを知らなかった。彼は組織の全員が情報を共有すべきであり、かつ地位にふさわしい扱いを受けるべきであると考えていた。しかも彼は、会議に呼ばれない人は軽んじられたと感じられるのではないかと恐れていた。
ここまで読んで、あるあると頷いた方も多いでしょう。
独裁的(強権的)な社長がとにかく関係者全員を集め、報告を聞き、細部まで指示命令をし、演説してやっと終了。参加者はどっと疲れて会議室を後にする、これに近い例があるのではないでしょうか。しかしこの社長は、他に情報伝達・共有の手段を思いつかず、善意で多くの部員の時間を奪っていたのです。
今日ではこの社長は、別の方法によってその不安を解消している。会議の前に次のような連絡メモを部内の全員に届けさせている。
「私は〔スミス、ジョーンズ、およびロビンソンの各氏〕に対し〔水曜の午後3時〕に〔4階会議室〕において〔来年度の資本支出予算〕について検討するため、私と会議を持つように手配しました。検討に参加を希望される場合、あるいは情報を必要とする場合には、会議に出席されるようご案内します。なお出席されない場合には会議終了後、検討の要約と決定の内容をお届けし、その際には貴殿のコメントを要請することにします」
かつては十数人が出席し午後いっぱいかかっていた会議が、今では数人の出席者と記録をとる秘書一人だけになり1時間ほどですむようになった。しかも、誰ひとりないがしろにされたと感じてはいない。
『経営者の条件』第2章 汝の時間を知れ p62
ここで紹介したエピソードから得られる教訓と実際に行っている会議の実際とを比較してみると、多くの気づきがあると思います。すぐに変更できることばかりではないと思います。しかし、会議に参加している各人がそれぞれに持っている不満や改善したい点を忌憚なくあげる場を作ってみるといいでしょう。
不満や愚痴をぶちまけてすっきりして終わるのではなく、建設的な提案にまで持っていくことです。人事管理部門のマネジャーにはぜひ取り組んでいただきたいと思います。そのためのたたき台として上記のエピソードをみんなで読むのもいいでしょう。
次回(第63回)は、いろいろな本などで紹介されていますが、会議の生産性を上げるためのチェックポイントについて書きます。次々回(第64回)は、欧米の企業の会議のスタイルを例にとって、いいところは取り入れるというスタイルで、実際にできそうなアイデアを紹介します。
Topics:意見の不一致を必要とする
アメリカの自動車会社GM(ゼネラルモーター)の経営者アルフレッド・P・スローン Jr.の逸話です。スローンは、1920年代、当時T型フォードの投入で市場を支配していた自動車業界で、フォードモータ・モーター・カンパニーに挑み、フォードの凋落とともにGMを世界一の企業に育て、新しく自動車産業を定義しなおした人物です。
当時のフォードは、フォーディズムという言葉がありますが、ベルトコンベア式の生産ラインで単一車種を生産していました。「お客様の求める色が黒である限りご要望に添える」といったそうです。高品質・高賃金・低価格といった要素が互いに矛盾し合うものではないことを証明しました。
労働環境は厳しいものでしたが、他を圧倒する高賃金を実現、車の販売価格は値上げせず、逆に値下げを実現しました。これにより、かつての贅沢品を大衆の手の届くものにしました。
第一次世界大戦後の不況から景気が回復し、商品の多様性を追求する顧客の動向変化に着目したスローンは、ボディーカラーをトゥルー・ブルーにした車種「オークランド」(のちのポンティアック)を市場に投入します。続いて「シボレー」を投入。ボディーカラーの多様化と車種にステータスシンボルという意味あいをもたせます。上位種からキャデラック、ビュイック、オールズモビル、ポンティアック、シボレーというラインナップを整えます。
このようにして単一車種とそのコストダウンという成功体験から離れられなかったフォードに対して完全な勝利をしました。フォードはその後何度か倒産の危機を迎えます。そして、フォード・モーターが復活するのは、第二次世界大戦後、ヘンリー・フォードの孫であるヘンリー・フォードⅡ世の時代になってからです。
ここまでの逸話は、イノベーションやマーケティングの題材に事欠かないのですが、今回は「会議」のテーマにそって「意見の不一致を必要とする」について紹介します。
スローンはGMの最高レベルの会議では、「それではこの決定に関しては、意見が完全に一致していると了解してよろしいか」と聞き、出席者全員がうなずくときには、「それでは、この問題について異なる見解を引き出し、この決定がいかなる意味をもつかについてもっと理解するための時間が必要と思われるのでさらに検討することを提案したい」といったそうである。
スローンは直観で決定を行う人ではなかった。意見は事実によって検証すべきことを強調していた。しかも結論からスタートしそれを裏付ける事実を探すようなことは、絶対に行ってはならないとしていた。
その彼が、正しい決定には適切な意見の不一致が必要であるとしていた。
P.F.ドラッカー『現代の経営』『経営者の条件』より
このスローンの決定の方式について、会議メンバーで話し合ってみてはいかがでしょうか?
次回は、この続きとして「意見の不一致が必要な3つの理由」を紹介します。
Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。