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60.リーダーの倫理と意思決定そして妥協

また、ヨーロッパで日本の自動車会社2社の検査データ偽装の疑いが報じられました。以前にVW社の大規模な偽装問題がありました。この時に、各社は自社に問題はないのか内部調査はしなかったのでしょうか?していたにもかかわらず、問題なしと判断したのか、問題ありでも成り行きを見ようとしたのでしょうか?

金融機関や団体でも、横領や着服が相次いで報じられました。こちらは個人の犯罪ですが、組織の管理体制に関する問題です。
偽装であれ横領・着服であれ手を染めた人間が悪いことは間違いないのですが、それを防げなかった、防ごうとしていなかった組織の責任はもっと重く受け止めるべきでしょう。
ことが起こった後の始末の大変さを考えれば、定期的に監査をする、たまに抜き打ちで調査することなど大した手間ではないはずです。仕組みさえ作って習慣化しておけばいいのです。

このようにいうと性悪説に基づく管理だという意見が出てきます。しかし、これは組織の見えない圧力や個人のちょっとした出来心から、頑張って働いている社員と組織を守るための手段なのです。

前置きが長くなりましたが、今回は100年前にさかのぼりマックス・ヴェーバーの『職業としての政治』*(1919)から「リーダーの倫理」を見ていきます。

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私は、政治学・社会学については全くの素人です。しかしヴェーバーの考えた倫理について読んでみて、実務上、様々な倫理上の葛藤を越えて意思決定しなければならないマネージャーに役立つ視点があると思い、ご紹介します。
*職業としての政治 (岩波文庫)脇 圭平 1980/3 入手困難
仕事としての学問 仕事としての政治 (講談社学術文庫) 野口 雅弘 2018/7

ヴェーバーは、リーダーの持つ倫理には、「責任倫理」と「心情倫理」の二つがあると説明しています。
「責任倫理」とは、問題の全体像を捉え、求められる結果を達成するためには道義上の犠牲もやむを得ないという立場をとります。ということは、結果重視であって、短期的に大きな犠牲を伴う決断も時には必要だと判断します。
「心情倫理」とは、長期的な結果に拘泥せず、それぞれの時点で正しいとすべきことを行っていく立場を言います。リーダーは、結果の如何にかかわらず、自身の倫理基準に忠実であるべきとします。

これら2つの対立する倫理観にあって、優れたリーダーは、それぞれの倫理に従って意思決定したときの影響を想定して判断を下すとしています。
ここで妥協が必要になります。妥協というとネガティブなイメージがありますが、正しい妥協というものもあるのです。
本当に優秀なリーダーは、自身の心情倫理に従い意思決定すべきであっても、長期的に良い結果を得るためには妥協が必要であることを理解しているし、妥協によって被る被害が許容できうるものかを判断しているのです。

ヴェーバーの著書から約半世紀後のドラッカーの著書にも意思決定における「妥協」についての記載があります。

決定においては何が正しいかを考えなければならない。やがては妥協が必要になるからこそ、誰が正しいか、何が受け入れやすいかという観点からスタートしてはならない。満たすべき必要条件を満足させるうえで何が正しいかを知らなければ、正しい妥協と間違った妥協を見分けることもできない。その結果間違った妥協をしてしまう。

私はこのことを1944年、初めての大きなコンサルティングの仕事としてGMの経営組織と経営方針について調査したときに教えられた。
会長のスローンは私を呼んでこういった。
「何を調べ、何を書き、何を結論とすべきかはすべてお任せする。あなたの仕事だからだ。正しいと思うことはそのまま書いてほしい。反応は気にしないでほしい。気に入られるかどうかなど関係ない。受け入れられやすくするために妥協しようと考えないでいただきたい。あなたの助けがなければ妥協できないものはこの会社にはいないはずである。しかし何が正しいかを最初に教えてくれなければ、正しい妥協もできなくなる」

意思決定を行うときには、この言葉を思い出すべきである。

『経営者の条件』第6章意思決定とは何か(1966年)

リーダーは意思決定をしなければなりません。その決定とは、正しいものと間違ったものからの選択であることは稀です。多くがかなり正しいものとおそらく間違っているであろうものからの選択です。

さらに、一方が他方よりたぶん正しいだろうとさえいえない二つの選択肢からの決定を迫られるのです。それでも、選択した決定を実行しなければいけません。
リーダーは、メンバーに対して決定だけを伝えるのではなく、決定までのプロセスを、判断となった基準を、決定が倫理的に正しいものといえる根拠を伝えなければなりません。

こうして優れたリーダーは、成果をあげる行動を実行すると同時に、メンバーを育てることができるのです。

Topics:石臼と丘の上

ドラッカーの著作の中によく登場するエピソードがあります。それは「石臼に向かいながら(鼻を押しつけながら)丘の上を見なければならない」です。

☆『非営利組織の経営』の中では、このように紹介されています。
「喜びは成果の中になければならない。石臼に向かいながらも丘の上を見なければいけない。仕事に飽きたということは、成果をあげるべく働くのをやめたということである。目もまた石臼を見ているにすぎない。」
「日常化した毎日が心地よくなったときこそ、違ったことを行うよう自らを駆り立てる必要がある。」


日々の仕事のほとんどは、うまくできていればいるほど慣れて、そして飽きてきます。そんなときは、一段上の成果を求めて工夫をしてみることが必要でしょう。
厳しいドラッカーの言葉ですが、「未来の姿」と「今日の行動」両方を意識して過ごしたいものです。

☆『マネジメント』では、第31章「マネジメントの仕事」で次のように言っています。
「自らのあらゆる決定と行動において、直ちに必要とされるものと、遠い将来に必要とされるものとをバランスさせることである。いずれを犠牲にしても組織は危険にさらされる。いわば、石臼に鼻を突きつけつつ丘の上を見るという曲芸をしなければならない」

こちらは、組織についてです。限られた資源をどう使うか。今日のために明日犠牲になるものについて、あるいは明日のために今日犠牲になるものについて検討し、犠牲を最小限にしなければなりません。二つの時相を生きなければなりません。

☆日常の仕事でも、PC画面(石臼)から「ちょっと視線を上に向け」「背筋を伸ばして」周りの様子(丘の上)をみる。ちょっと深呼吸する。緊張状態から意識して弛緩状態を作り出す。
頭(ブレイン)、身体(体力)心(情熱)のバランスを意識する。私は、こういった解釈もできるかと思っています。
大庭純一

Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。

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