56.あなたのチームをスポーツチームに例えたら(1)
著者紹介によると、麻野氏は、モチベーションエンジニアを名乗り、㈱リンクアンドモチベーション取締役をされています。この会社は、リクルート出身の小笹芳央氏(現代表取締役会長)が2000年に立ち上げた会社で、組織開発、人材育成、人材採用を柱に事業展開しています。ご存知の方も多いでしょう。
参考:https://www.lmi.ne.jp/companydata/
同書より、(1)チームの4タイプ(2)5つの法則について、私なりの解説をしていきます。
コンパクトにまとまって読みやすい内容ですので、ぜひ購入して職場メンバー全員で読み、チームとして学び、実践されることをお奨めします。
(1)チームの4タイプ
同書では、チームのタイプを「環境の変化の度合い」と「メンバーの連携度合い」の2つの軸で4つのタイプに分けています。縦軸:環境の変化度合い(上が大、下が小)
横軸:メンバーの連携度合い(右が大、左が小)
サッカー型の例として、スマートフォンアプリの開発チーム
野球型の例として、飲食店の店舗スタッフチーム
柔道団体戦型の例として、生命保険の営業チーム
駅伝型の例として、メーカーの工場の生産チームがあげられています。
また、これらのパターンを
What:設定粒度(ルールの多少)
Who:権限規定(誰が決める)
Where:責任範囲(個人orチーム)
How:評価対象(結果/プロセス)
When:確認頻度(多/少)で分析しています。詳しくは、同書を参照ください。
(2)5つの法則
法則はアルファベットによる頭字(acronym)になっており、AからEまでの5つで構成されています。私の勝手ではありますが、5+1(F)を加えさせていただきたいと思います。A:Aim 目標設定の法則
B:Boarding 人員選定の法則
C:Communication 意思疎通の法則
D:Decision 意思決定の法則
E:Engagement 共感創造の法則
+F:Feedback 振り返りの法則
では、それぞれについて要約していきます。
A:Aim 目標設定の法則~旗を立てろ!~
グループとチームの違いは、メンバー共通の目標があるかどうかです。そして、目標には3つのレベルがあります。
それをa.「意義目標」b.「成果目標」c.「行動目標」としています。どれかを選択をするのではなく、3つの目標が整合性をもって明確に表現されなくてはなりません。
a.私たちのチームの存在意義は?
b.何を成し遂げれば組織に貢献できるのか?、自分たちが成長できるのか?
c.そのためにはメンバーそれぞれが具体的にどういったアクションをとるのか?
これらを決めて共有することです。また、チーム内だけでなく、組織の関係各所にも伝えることです。
B:Boarding 人員選定の法則~戦える仲間を選べ~
新規プロジェクトやタスクフォースチームなど、新たに編成するチームでは人員選定というステップが必要です。
しかし、ここではいつも仕事をしている固定的メンバーのチームについて考えます。
長年一緒に仕事をしてきて、メンバーのことはわかり切っていると思っていませんか?
同じメンバーで固定的な仕事をし続けていると、自身でも強みがどこにあるのかわからなくなってしまいます。強みだと思っていたことが、案外、平凡な者だったなどということがあります。
今更何を?と思うかもしれませんが、メンバー同士で、それぞれがどのような仕事をどういった手順でやっているか、どこが苦労する点か、どうしたらもっと楽に出来るかを話し合うことです。ムリ・ムダ・ムラが噴出し、改善点がどんどん出るでしょう。
また、これをやっておけば、長期休暇者が出た時のリカバリー、転入・転出者があった時の業務移管もスムーズにできます。
C:Communication 意思疎通の法則~最高の空間をつくれ~
すでにBの所でメンバー各自の仕事内容や仕事の仕方、そして強みや不得手なところが共有されています。つまり、メンバーそれぞれの「経験」「感覚」「志向」「能力」が解っている状態です。
新しい課題やより高度な要求の仕事をしていく上でのコミュニケーションとは?コミュニケーションを阻害する要因は感情にあると言われます。
人はいつもオープンでエネルギーにあふれている訳ではありません。バイオリズムなどの研究も知られています。モチベーションも同様に波があります。メンバーどうしの気配りをわすれず、「理解してから理解される」という関係を常に意識しましょう。
D:Decision 意思決定の法則~進むべき道を示せ~
意思決定の方法も常に固定的ではいけません。「リーダーが決断する」「多数決によって決定する」「合議で決断する」などがあるでしょう。
当然、解決すべき課題の内容、時間的余裕、メンバーの納得感を考えなければなりません。どのような決定方法を採用したとしても、最終的にはメンバー全員の行動が一つの方向に向かうようにならなければなりません。『THE TEAM』の第4章に「問題解決と意思決定」の思考プロセスを体系化したKT法が紹介されています。(考案者のKepner氏と Tregoe氏の頭文字をとってKT法といわれます)日本ではあまりなじみがないようですが、アメリカの企業で多く採用されています。
E:Engagement 共感創造の法則~力を出しきれ~
欧米を中心に、重要な経営指標の一つとして「エンゲージメント」という概念が注目されています。「組織や職務との関係性に基づく自主的貢献意欲」と定義されます。私は、もう少しわかりやすく「積極的な参画意識・行動と達成意欲」と言っています。
エンゲージメントを高めるための4Pというものがあります。
Philosophy(理念・方針)Profession(活動・成長) People(人材・風土) Privilege(待遇・特権)です。
最初の3つは、A~Dまでですでにイメージができるでしょう。4つ目の、Privilegeは報酬(昇給や賞与)などで説明されることが多いのですが、実際に「組織内での自分たちのチームの評価」とするのが良いと思われます。「あのチームは活気がある」「とてもよくやってくれた」「どうやって成果を出しているの?」などの評価です。
+F:Feedback 振り返りの法則~成果を出し続けるために~
先にも書きましたが、筆者の独断で“F”を追加させていただきます。
プロジェクトやタスクフォースチームでは、期待された成果に対して結果がどうであったかの報告がなされます。この結果報告も一つのフィードバックでしょうが、それだけで終わってしまってはもったいないのです。
結果に至るまでのプロセスにおいてどのような成功/失敗があったか、副次的に得られた知見はなかったか、などを振り返って話し合いましょう。メンバー同士で育んだ絆についてもきちんと口に出して伝えましょう。
これは、固定的なメンバーの(常設の)チームでも同じです。半年に1回はフィードバックのためのミーティングを行いましょう。
ドラッカーは、イノベーションがどういった時に起こるのかを7項目あげています。その中で最も起こりやすいとしているものが「予期せぬことの生起」です。つまり、予期せぬ成功、予期せぬ失敗、予期せぬ出来事です。
イノベーションというと、新しい技術による画期的な発明をイメージすることが多いでしょうが、身の回りの出来事からも生まれるのです。(『イノベーションと起業家精神』p18~)
働き方改革を進めるにあたっても、今まで通りの仕事量・やり方のまま、ひたすらがんばって仕事をこなすという発想から離れて、チーム全体で仕事の全体像を把握し、個々人の強みを組み合わせて、スマートな働き方の職場を目指したいものです。
右のカードは、筆者が外資系(米国)企業で実際に使ってい た、KT法の手順が書いてある携帯用カードです。
Topics:ドラッカー:私の人生を変えた7つの体験(まとめ)
これまで7回にわたって紹介してきた7つの体験をまとめます。さらに、この7つ体験が紹介された『創生の時』(P・F・ドラッカー、中内功「往復書簡」)から中内が「ドラッカーの7つの体験」を受けて示した3つの教訓を紹介します。1.目標とビジョンをもって行動する(ヴェルディの教訓)・・・・・・・第50回
2.神々が見ている(フェイディアスの教訓)・・・・・・・・・・・・・第51回
3.一つのことに集中する(記者時代の決心)・・・・・・・・・・・・・第52回
4.定期的に検証と反省を行う(編集長の教訓)・・・・・・・・・・・・第53回
5.新しい仕事が要求するものを考える(シニアパートナーの教訓)・・・第54回
6.書きとめておく(イエズス会とカルヴァン派の教訓)・・・・・・・・第55回
7.何によって憶えられたいか(シュンペーターの教訓)・・・・・・・・第56回
1番目の教訓は、ビジョンをもつこと。努力を続けることこそ老いることなく成熟するコツを教えてくれます。
2番目の教訓は、仕事において真摯さを重視すること、すなわち誇りを持ち、完全を求め続けることを教えてくれます。
3番目の決心は、日常生活の中に継続学習を組み込むということ。常に新しいことに取り組むこと。昨日より優れたことを行う、新しい方法で行うことを課す姿勢を教えてくれます。
4番目の教訓は、自らを生き生きとさせ、成長を続けている人は、自分の仕事ぶりの評価を仕事そのものの中に組み込むことを実践していることを教えてくれます。
5番目の教訓は、仕事や地位や任務が変わった時には、新しい仕事が要求するものについて徹底的に考えるべきことを教えてくれます。
6番目の教訓は、行動や意思決定がもたらすものについての期待をあらかじめ記録し、後日、実際の結果と比較すること。そうして、強みを知り、改善や変更や学習しなければならないことを知ること。さらに得意でないこと、他人に任せるべきことも知ることを教えてくれます。フィードバックをすることです。
7番目の教訓は、上記1から6までの教えを実践することによって見えてくるものです。成果をあげ続け、成長と自己変革を続けるには、自らの啓発と配属に自らが責任を持つことです。
これら7つの経験からの学びを教訓としたからこそ、ドラッカーは「大学院教授」「執筆家」「コンサルタント」として生涯(95歳になるまで)活躍できたのでしょう。
第50回のTopicsで書きましたが、これら7つの経験はダイエーの創始者、中内功氏と往復書簡をまとめて出版された、『挑戦の時』『創生の時』*1(“Drucker on Asia”)(1996年)に収録されています。
ここにはドラッカーの手紙を受けての中内氏の創業時代の経験と3つの教訓があげられています。3つの教訓を紹介します。
「ここで私も、あなたの体験談に触発されて、私自身の経験から得た教訓についてまとめたいと思います」という書き出しで、
第一の教訓――イノベーションとは常識の打破
イノベーションとは、常識の打破のことであり、業務の根底からの見直しから生まれるということ。そしてきっかけは、大仰なものではなく、小さな発想の転換によって生むことができる。として、対面量り売りから袋詰め販売、低価格牛肉の販売、オレンジジュースの輸入による食卓の変化などの例を挙げています。
第二の教訓――大衆の側から見る
菓子類の袋詰め販売は、日本人の生活パターンの変化に応じて、商品の形態や販売方法を変えたことで成功した。ドラッグストアにこだわらず「非顧客」のことを考え、薬中心から生活用品全般に転換したこと。大衆の支持を得られる製品づくりにこそ事業のチャンスがある。
第三の教訓――経営指針と継続学習
継続学習を日常の業務のなかに組み込んでしまうことの重要性。三宮店(神戸)で、若い新入社員が、「よい品をどんどん安く」という創業以来の経営方針を牛肉の販売で具体化すべく、自ら学習し、自ら工夫し、ついにセルフサービスの導入に成功した例を挙げています。
私もまた、私の最高の事業は、「次の事業」と言えるように、これまでと同じように、いやそれ以上に生涯学習に励んでいくことをお約束します。と結んでいます。
*『創生の時』(上田惇生訳 ダイヤモンド社 1995)は現在、入手困難です。ドラッカーの「私の人生を変えた7つの体験」の部分は『プロフェッショナルの条件』Part3第1章に収録されています。
Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。