51.リーダーシップについて考える(2)
まずは1988年にウォールストリートジャーナルに投稿されたコラムを紹介します。*1
リーダーシップや、リーダーの「資質」についての本や記事、そして会議があふれている。(中略)もちろん、リーダーシップは重要である。しかしそれは、今日、リーダーシップと名付けられ喧伝されているものとはいささか異なる。
コラムが書かれた1988年当時も、私がコラムを書いている今(2019年)もやはりリーダーシップに関する書籍が多く出版されています。しかし、その中のいくつかはヒットするものの、短期間で忘れられてしまいます。
いわゆる「リーダーの資質」などとは、ほとんど関係がない。「カリスマ性」とはもっと関係がない。それは神秘的なものではない。平凡で退屈なものである。その真髄は、行動にある。
第一に、リーダーシップそれ自体は、良いことでも、望ましいことでもない。それは手段である。何のためのリーダーシップかが重要である。
ここでドラッカーは20世紀のカリスマ的リーダー、スターリン、ヒトラー、毛沢東の3人をあげ、人類史上かつてない害をもたらした間違ったリーダーとしています。
効果的なリーダーシップ*2は、カリスマ性に依存するものではない。カリスマ性は、リーダーとしての有効性を保証するものではない。
それでは、カリスマ性でもなく、個人的資質でもないとすると、リーダーとは何か。
まず第一に指摘すべきは、それは仕事だということである。効果的なリーダーシップの基礎は、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で定義し確立することである。
リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定めて、それを維持するものである。もちろん妥協することもある。
しかし、効果的なリーダーは、妥協を受け入れる前に、何が正しく、望ましいかを考え抜く。
また、リーダーが真の信奉者をもつか、日和見的な取り巻きをもつにすぎないかは、自らの行為によって範を示しつつ、いくつかの基本的な「基準」を守り抜けるか、「基準」などは捨ててもよいものとしてしまうかによって決まる。
近頃、歴史もあり優秀な社員を抱える大企業でさえ、粉飾や偽装をしていたことが次々に明るみになっています。いかに部下を意のままにコントロールするかのテクニックだけの、上司の指示に対しても「基準」を持ちえず唯々諾々と従う、不都合な事実を裏で共有してリスク回避を図るといった、似非リーダーの行動がトップから現場管理者まで浸透してしまっているのかもしれません
リーダーの第2の要件は、リーダーシップとは地位や特権ではなく、責任と見ることである。効果的なリーダーは、ほとんど常に厳しい。しかし、ことがうまくいかないとき、そして何事も大体においてうまくいかないものであるが、リーダーはそれを人のせいにしない。
そして、効果的なリーダーは、他の誰でもなく、自分が最終的に責任を負うべきことを知っているからこそ、部下の力を恐れたりしない。
ところが、間違ったリーダーは、恐れる。そして部下の追放に走る。
これに対して、効果的なリーダーは、強力な部下を求める。部下を激励し、前進させ、自らの誇りとする。また効果的なリーダーは、自分の退任や死去のとたんに組織が崩壊することは最も非難されるべきであるということを知っている。
効果的なリーダーの第3の要件は、信頼を得られるということである。
信頼を得られない限り、従うものはいない。そしてリーダーに関する唯一の定義は、つき従う者がいるということである。リーダーを信頼するということは、必ずしもそのリーダーを好きになるということではない。また、同意するということでもない。信頼するということは、リーダーの言うことは、リーダーの真意であるということについて確信をもてることである。
それは、「誠実さ」という誠に古くさいものに対する確信である。リーダーの行動と、リーダーが公言する信念とは、一致していなければならないし、少なくとも矛盾してはならない。
もう一つ、これも古くからの知恵であるが、効果的なリーダーは、賢さに支えられるものではない。一貫性に支えられるものである。
部下の指導に自信が持てない上司が増えていると聞きます。若手社員はちょっとした指導をしただけですぐに辞めてしまいそう。年上の部下には経験値の違いから遠慮がちにしかものが言えない。
しかし本物のリーダーは、人と仕事をしっかり分けています。
強力な部下を求め、信頼を得る為の方法として、最近注目されているのがOne on One(ワン・オン・ワン)です。
今でもリーダーと部下の間での面談を実施していることと思います。年1,2回、目標設定や勤務評価、給与・賞与査定の時でしょう。
先進企業のOne on Oneは違います。
最近出版された3冊の本*3をまとめると、主にアメリカの企業において採用され、それを日本の企業/組織に適用させたOne on One が紹介されています。
アメリカの企業においては、通常の業務遂行については個人の能力主義が徹底しています。これが機能するのは、上司と業務遂行目標を徹底的に話し合い双方の合意形成ができているからです。
一旦、目標が決まれば、そこに至るまでの仕事の仕方は個人に任され、成果をあげる責任をもって仕事をするのです。
また、One on Oneは部下が上司に働きかける場でもあります。
業務遂行にあたって必要な資源の調達要求(=社内外リソースの活用・能力開発のための機会と金銭的補助など)、個人的な家庭の事情(=ワークライフバランスなど)、個人の体調やメンタルのことをテーマに話し合いの場を持ってもらいます。
まとめると、One on Oneは、上司から部下への指示・命令・伝達の場ではなく、部下の考えややりたいこと・やれること(何に貢献ができるか)を引き出し、一緒に部門の目標を達成するために考え、解決策を見出す場なのです。
これには双方向のコミュニケーションが必要です。また上司は部下に対して成果を出すうえでの課題や障害を部下と一緒に検討する場でもあるのです。
理想は、年何回・決まった時にミーティングをもつだけでなく、上司・部下どちらからも必要な時に話し合いの場を持てる環境が必要です。
ここでしっかりと話し合いが出来ていると、業務遂行中のドタバタが減少します。ミーティングに取られる時間をしっかり確保しておくことが後々の混乱を避ける有効な方法です。
もう一つドラッカーの著書から紹介します。非営利組織(以下NPO)におけるリーダーシップを扱ったものです。
営利組織においても、営利組織にとってこそNPOの取り組みから学べることが多くあります。なぜなら、いつでもやめることができる多くのボランティアを組織して結果を出すという、究極の組織運営・リーダーシップを行わないと成果を出すことができないのがNPOだからです。
(『非営利組織の経営』Part1第3章「イノベーションとリーダーシップ」より)
【リーダーを見つける】
組織のリーダーを選ぶには何を見なければならないか。
1.その人が何をしてきたか、何がその人の強みかを見る。
2.組織が置かれている状況を見て、組織のために行うべき重要なことは何かを考える。
3.真摯さを見る。リーダー、特に強力なリーダーとは模範になるべきものである。組織内の人たち、特に若い人たちがまねをするに値する人を選ぶ。
【リーダーとしての基本的な能力】
1.人の言うことを聞く意欲、能力、姿勢。
聞くことはスキルではなく姿勢である。誰にもできる。しなければならないことは、自分の口を閉ざすことである。
2.コミュニケーションの意志、すなわち自らの考えを理解してもらう意欲である。
そのためには大変な忍耐を要する。何度も何度もいわなければならない。身をもって示さなければならない。
3.言い訳をしないことである。
思ったように行っていない、間違った、やり直そうと言えなければならない。仕事は、できたかできなかったである。まあまあですまそうとしてはならない。本気で取り組むからプライドが生まれる。
4.仕事の重要性に比べれば自分など取るに足らないことを認識する。
リーダーには客観性が必要である。リーダーたる者は自らを仕事の下に置かなければならない。仕事と自分を一体化してはならない。
リーダーにとって最悪のことは、辞めたあとの組織がガタガタになることである。それは、リーダーが単に収奪するだけだったことを意味する。
【リーダーは自らをつくりあげる】
組織にすべてを捧げよというわけではない。ベストを尽くせばよい。人を組織に引きつけるものは高い基準である。高い基準だけが誇りをもたらす。人はもともと貢献することを好む。
【バランスをとる】
二つのもののバランスをとることである。
・個別的な問題と全体的な問題
・短期的な問題と長期的な問題
・集中と多様化のバランス
・慎重さと迅速さのバランス
・機会とリスクにかかわるバランス
【リーダーがしてはならないこと】
・自分のしていることとその理由は、誰にも明らかなはずだと思うこと。
成果を上げるためには、自分をわかってもらうために時間を使わなければならない。
・組織内の個性を恐れること
・手柄を独り占めすること
・部下を悪く言うこと
(『非営利組織の経営』Part1第5章「リーダーであるということ」より)
・最近リーダーシップがよく問題にされる。遅すぎたくらいである。
しかし、最初に考えるべきものとはリーダーシップではない。ミッションである。
ミッションは長期のものでなければならない。われわれは、長期の目標を目指さなければならない。そこから戻って今日何をするかを考えなければならない。行動は短期的たらざるをえない。
だからこそ、長期の目標につながるか、寄り道にすぎないか、目的を見失っていないかを考えなければならない。これが最初に考えるべきことである。
・われわれは成果中心でなければならない。活動に見合う成果あげたかを考えなければならない。
リーダーシップとは行動である。思索にとどまってはならない。
リーダーたる者が次に行うべきことは、優先順位を考えることである。
言うは易く、行うは難し。多くのものが支持する魅力あるものを捨てなければならない。資源を集中しなければ成果をあげることはできない。
・リーダーシップとは模範となることである。リーダーは模範たるべきものである。
したがってリーダーたる者は、あらゆる行動において、翌朝鏡の中に見たい自分であるかを問うことを習慣化しなければならない。
あるいは、自らのリーダーがそうあってほしいかを自問しなければならない。
ごく当たり前のことばかりかもしれませんが、じっくりと読み込んでください。他部署のリーダーたちとディスカッションすることもお奨めします。わかっていても行動に移さなければ何も変わりません。リーダーであるあなたの行動が変わればメンバーは気づきます。そしてあなたの本気度が伝われば、メンバーも変わり組織が良い循環になっていきます。
次回は、フランシス・ヘッセルバインのリーダーシップを紹介します。
*1現在このコラムは、『未来企業』(1992年ダイヤモンド社)15章「リーダーシップ―格好より行動」、『プロフェッショナルの条件』(2000年ダイヤモンド社)Part4 4章「仕事としてのリーダーシップ」で読むことができます。
*2「効果的リーダーシップ」との訳語はやや不自然かもしれません。原文は、effective leadershipとなっており「優れたリーダーシップ」「成果をあげるリーダーシップ」と読み替えると違和感がないかもしれません。
*3「ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法(2017.03発売)」、「シリコンバレー式最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング(2017.09発売)」、「1on1マネジメント(2018.04発売)」
Topics ドラッカー:私の人生を変えた7つの体験(2)
第2番目は、「神々が見ている―フェイディアスの教訓」です。ヴェルディの教訓と同じハンブルク時代(ドラッカー18歳頃)の話です。完全とはなにかを教えてくれる一つの物語と出会います。
ギリシャの彫刻家フェイディアス(紀元前490年頃ー紀元前430年頃)の話です。
紀元前440年ころ、彼はアテネのパンテオンの屋根に立つ彫刻像群を完成させた。それらは今でも西洋最高の彫刻とされている。だが彫像の完成後、フェイディアスの請求書に対し、アテネの会計官は支払いを拒んだ。「彫像の背中は見えない。誰にも見えない部分まで彫って、請求してくるとは何ごとか」といった。
それに対して、フェイディアスは次のように答えた。「そんなことはない。神々が見ている」。この話を読んだのは、ちょうど『ファルスタッフ』を聴いたあとだった。ここでも心を打たれた。
今日に至るも*1私は到底そのような域には達していない。むしろ神々に気づかれたくないことをたくさんしてきた。
しかし私は、神々しか見ていなくとも、完全を求めていかなければならないということを、その時以来、肝に銘じている。(中略)
すでに私は、ヴェルディが『ファルスタッフ』を書いた年を越えた。しかしちょうど今、2冊の本を構想し、実際に書き始めている。その2冊*2とも、これまでのどの本よりも優れたもの、重要なもの、完全に近いものにしたいと思っている。
*1:1996年前後ですからドラッカー80歳後半です
*2:この後、『明日を支配するもの』1999年、『ネクストソサエティ』2002年を出版。全世界でベストセラーになる
一つ目のヴェルディの教訓は、「目標とビジョンをもつ」こと、二つ目のフェイディアスの教訓は、「真摯さを重視すること」とも言えます。
ドラッカーは、ハンブルクには2年ほど滞在した後、フランクフルトに転居します。職業も新聞記者になります。そして夜間はフランクフルト大学に通います。第3、第4の経験はこのフランクフルト時代のものです。
次回は、第3の経験「一つのことに集中する―記者時代の決心」です。
Jerry O. (大庭 純一)
1956年 北海道室蘭市生まれ、小樽商科大学卒業。静岡県掛川市在住。
ドラッカー学会会員。フリーランスで、P.F.ドラッカーの著作による読書会、勉強会を主催。
会社員として、国内大手製造業、外資系製造業、IT(ソフトウェア開発)業に勤務。
職種は、一貫して人事、総務、経理などの管理部門に携わる。社内全体を見通す視点、実働部隊を支える視点で、組織が成果をあげるための貢献を考えて行動をした。
・ISO9000s(品質)ISO14000s(環境)ISO27000s(情報セキュリティー)に関しては、構築、導入、運用、内部監査を担当。
・採用は新卒、キャリア、海外でのエンジニアのリクルートを担当。面接を重視する採用と入社後のフォローアップで、早期離職者を出さない職場環境を実現。
・グローバル化・ダイバーシティに関しては、海外エンジニアの現地からの直接採用、日本語教育をおこなう。日本人社員に対しては、英語教育を行う。
・社内教育では、語学教育のみならず社内コミュニケーションの活性化、ドラッカーを中心としたセルフマネジメント、組織マネジメント、事業マネジメントを指導。